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生きることのふさわしさと曖昧さ
それでも俺は生きていたいと思う。
ショットガンで頭を撃ち抜いて死んだカート・コバーンは“Lithium”の中で
I'm so happy 'cause today
I've found my friends ...
They're in my head
と歌った。ドラッグについての曲なのは歌詞を最後までたどれば明白だが、タイトルが”Lithium”なところから、この曲は双極性障害という病気を、ドラッグという卑近な例を出して歌っているに過ぎない、と俺は思っている。なぜなら、Lithium、つまり炭酸リチウムを、俺も毎晩服薬しているからだ。
鬱病だと思っていたものが双極性障害Ⅱ型だということが判明したのは2年ほど前だったが、俺は自分の「障害とか病気」について強く語ろうとは一度も思ったことがない。正直に言えば、語ることによって「障害とか病気」が激しく内面化されることを恐れている。一度アイデンティティに癒着したそれらは、自分の生き方と引き剥がすことはなかなか難しくなるからだ。
だから、それを別のことばで置き換えたいといつも思っている。ただ、「特性」としてしまっては、少なからずある負の側面の大きさに対して釣り合わない気がするし、「私らしさ」ではまったくもってない。
気分が沈んで三日間風呂に入らず会社を休むこともあれば、朝から掃除機をかけて風呂掃除をして、それに飽き足らず断捨離をはじめ、苦労して手に入れたTシャツを二束三文でセカストに売ってしまう時だってある。7年以上、眠気とは無関係の生活を送っているし、一度眠りにつけば12時間寝てしまう。
「(病気、障害なんだから)そういうこともあるよね」と俺は俺に言いたくない。
ただ俺は、生きるにふさわしい生き方をしたいだけだ。そこにはっきりとした病名がついたとて、変わるのは薬の種類くらいだ。10種類の薬を、ハリウッド映画に出てくるオレンジ色のピルケースにわけている。それを寝る前に水で流し込んで布団に入るだけの、ただの人間でありたい。このオレンジ色のケース抜きでは、俺は自分のうちにある感情の濁流に飲まれて死んでしまうし、眠ることすらままならない。ただそれでも、薬が必要なだけの、本当にただの人間でありたい。
———
映画「ナミビアの砂漠」を見て、Tシャツを作った。町田の雑踏を歩きながらリップを塗り、大股で歩く主人公、カナ(河合優美)が着ているロンTがかっこいいと思ったからだ。
あらすじや考察はGoogle検索に譲りたいと思う。
ひとつ映画の流れを言うならば、カナは映画の後半でそれを患い始める。カナはカナのまま、暴れたり、落ち着いたりしながら、ナミビアの砂漠のライブカメラを見たりする。
俺はカナの生命、存在に圧倒された。それは、「人間でありたい」という俺自身の欲望を、カナが発露しているように見えて仕方がなかったからだ。
カナの病名は明かされない。人々が「障害や病気」と呼ぶものは、曖昧なまま、内面化されず、しかしカナはそれと向き合い始め、それと向き合うことでパートナーと向き合い始め、そこで映画は終わる。
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ほんの一例として捉えて貰えれば良いのだが、MBTIによって自分の性質を細分化し、「自分はこういう人間だ」という規範を内面化することが大きな流れになっている気がする。「繊細さん」絡みの本が書店にいけばたくさん並んでいるし、ビジネス書はセルフマネジメントの文字でいっぱいだ。
たぶん、自分の「特性」を把握し、ハックすることによって、円滑になるなにかがあるのだろう。
ただ俺はどうしても、それを彼岸のものとして眺めてしまう。
砂漠の向う側にある世界の、人間たちの、自分を見つめ直すための遊戯に見えてしまう。
俺に病名がついているからではない。「こういう人間なんだから、こういう風に生きていくのはしょうがないよね、こういうところがあるけど、それも特性だよね」と、自分を硬直した存在として捉えようとすることに、強く反発したい。
生きるにふさわしい生き方をしたいと思う。そして、皆、生きるにふさわしくない人間などいないのだから、抱えながら、わかられないまま、わからないまま、すべてが曖昧なまま生きていける世界があればいいのにと思う。
そしてその世界は、全体がそうなるわけではない。自分が自分と対話をし、ときに周辺を恨みながらも、やわらかいまま閉じていかないことでしか生まれない。
自分にとっての生きるにふさわしく曖昧な世界が、いつか必ずやってくることを強く祈りながら、俺は今日も薬を飲む。カナは町田で生きている。人々はお酒を飲む。セックスをする。音楽を聴く。友達と電話をする。
何も抱えていない人なんていない。だから全員が、何かを抱えたまま、何者でもない自分で生きていけることが出来たら、どれだけ幸せなことなのだろう。柔らかく温かな世界で闘争するために作ったこのTシャツを着て、あなたはどこを、どういう風に歩くのだろう。
モデル身長151cm
着用サイズL
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